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日本矯正歯科専門医名鑑 
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日本矯正歯科専門医名鑑制作委員会

 

 


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日本矯正歯科学会専門医課題症例(その他の症例2)

カテゴリー:埋伏歯牽引症例(代替症例)

出題基準:
 埋伏歯を矯正歯科的に牽引することで、正常咬合を確立できた症例。

出題の意味:
 埋伏歯は、歯の萌出する隙間の不足、萌出方向の不良、萌出力不足、腫瘍または囊胞などの障害物により萌出路が塞がれている場合などに生じる病気である。いったん萌出が妨げられると、原因が除去されても自然萌出に至らないことが多く、そのままでは埋伏歯が使えないだけでなく、正常咬合が確立できない事態となる。
 最良の解決策は、口腔外科的に開窓後、矯正歯科的に牽引し咬合に参加させることである。単に萌出させたと言うだけでなく、牽引後マルチブラケット装置を使用し、正常咬合を確立したケースの提示が求められている。

初診時



初診時年齢:9歳3ヵ月の女性

主訴:上顎の前歯が出てこない。

現病歴: 21番は未萌出で同部唇側歯肉部に歯冠様隆起を自覚するが放置。現在dental ageはstageⅢAであるが21番が気になり矯正治療を考え始める。
身長は100cm中肉中背であり特記事項なし。

家族歴:特記事項なし。

顔貌所見:側貌:Mesio facial typeであり、口元の突出は見られず良好な側貌形態である。

正貌:左右対称。軽度の下口唇の肥厚を認める。

頭部X線規格写真所見:
骨格系:facial angle 84.4度で1S.D.内である。A-B plane-8.7度で2S.Dを超えて小さくconvexityは 6.1度でほぼ2S.D.である。Gonial angle 118.7で下顎角は大きく, mandibular plane angleは28.7度と1S.D.内である。
歯系:U1-SN 105.2度, Interincisalは114.1度で1S.D内である。L1-MP 99.9度はほぼ1SD.である

その他の所見:21番は未萌出であり同部尖部に歯牙様膨隆を認める。
パノラマレントゲンにて21番は水平的に埋伏し、歯冠のみを認める。左右下顎大臼歯の近心傾斜を認め上下顎側方歯群は未萌出状態で顎骨内に認める。

診断(プロブレムリスト):
①21番埋伏歯
②上下顎狭窄歯列弓
③下顎前歯部叢生
④異常嚥下癖

治療中


治療に使用した装置
・マルチブラケット装置、クワドヘリックス

治療方針
永久歯による機能的咬合の確立
舌突出癖に対する口腔筋機能療法(MFT)
下顎は臼歯部舌側傾斜の修正及び犬歯間幅径の拡大による狭窄歯列弓の改善。(3Dリンガルアーチ)
上顎は臼歯部の側方拡大・第一大臼歯の近心捻転の修正による狭窄歯列弓の改善。(3Dクワッド ヘリックス)
21番埋伏歯牽引(固定源3Dクワッド ヘリックス)
永久歯個々の歯の配列と機能的咬合の確立。(マルチブラケット装置)

治療経過と使用装置
2001年 1月 下顎に3Dリンガルアーチを装着。
2001年 4月 上顎に3Dクワッド ヘリックスを装着。口腔筋機能療法(MFT)開始。
2001年11月 21番埋伏歯を開窓後ブラケット装着し固定源3Dクワッド ヘリックスより牽引  
2003年 3月 上下顎マルチブラケット装置装着。
2004年 9月 下顎に3Dリンガルアーチにて37・47番舌側傾斜の修正。
2005年 3月 上顎3Dクワッド ヘリックス、下顎3Dリンガルアーチを除去。
2006年 5月 上下顎マルチブラケットを撤去し動的治療終了。保定期に移行。

マルチブラケット終了時



保定【保定装置の種類,使用状況,智歯の処理など】:
保定装置は上下顎ともにソフトリテーナーを用いる。
動的治療終了後6ヶ月間は1日中使用指示、その後2年間は就寝時のみ使用。その後は1週間に2度程度使用指示。
智歯の処置 下顎左右智歯を抜歯。38番は未萌出の為経過観察中。

治療後2年経過時



治療結果
埋伏していた21番も牽引萌出でき歯根吸収も最小限に抑えられ、個々の歯の配列と臼歯Ⅰ級関係での機能的咬合が確立された。A-B plane-8.7から-5.4 convexity1は6.1から5.7に変化した。U1-SNは105.2から104.1に、 L1-MPは 99.9から94.5に変化した。模型分析Coronal Archにおいて、 上顎Ant. Width は30.2から38.5(-0.4S.D.)に、 Post.Widthは43.5から48.5(-1.3S.D.)に変化した。下顎Ant. Widthは26.1から31.0(-0.1S.D.)に、Post.Widthは54.5から56.2(6.7S.D.)に変化した。Basal Archにおいて上顎Ant. Width は43.2から44.2(-0.3S.D.)に、 Post.Width は61.3から62.5(-1.3S.D.)に変化した。 下顎Ant. Width は33.7から34.9(0.1S.D.) に、 Post.Widthは 61.9から62.3(0.1S.D.)に変化した。


治療前後の比較


パノラマエックス線写真(左:治療前、右:治療後)


側面頭部エックス線規格写真(左:治療前、右:治療後)


上顎前歯部デンタルレントゲン写真(左:治療前、右:治療後)


透視図の重ね合わせ(黒:治療前、赤:治療後)

左:側面頭部エックス線規格写真の重ね合わせ
中:上顎骨上の重ね合わせ
右:下顎骨上の重ね合わせ

考察
1期治療において上顎に3Dクワッド ヘリックスを装着し、11番と22番の間を拡大することにより21番の埋伏歯を牽引可能なスペースの獲得が出来た。上顎臼歯部の側方拡大、第一大臼歯の近心捻転の修正を舌側より上顎第一大臼歯の遠心舌側咬頭を中心に捻転を修正すること及びEスペースの利用で上顎のA.L.D.-7mmは改善され狭窄歯列及び12番のクロスバイトも改善することが出来たと考えられる。下顎も舌側より3Dリンガルアーチを装着し臼歯部舌側傾斜の修正及び犬歯間幅径の拡大により狭窄歯列弓の改善が行えたと考えられる。上下顎切歯は動的治療終了時唇側傾斜がやや強くなったが口元には顕著な変化は認められなかった。
初診時、舌突出癖が見られた症例である。現在、保定期間は2年0ヶ月であるが、さらに長期に亘り保定装置を装着し、また、口腔筋機能療法を継続して定期的に経過観察していく予定である。



取材協力:医)彰美会 吉本歯科医院(千葉市緑区おゆみ野中央)
解説:吉本彰宏 先生 (日本矯正歯科学会専門医)