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日本矯正歯科専門医名鑑 
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日本矯正歯科専門医名鑑制作委員会

 

 


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日本矯正歯科学会専門医課題症例(その他の症例1)

カテゴリー:埋伏歯牽引症例(代替症例)

出題基準:
 埋伏歯を矯正歯科的に牽引することで、正常咬合を確立できた症例。

出題の意味:
 埋伏歯は、歯の萌出する隙間の不足、萌出方向の不良、萌出力不足、腫瘍または囊胞などの障害物により萌出路が塞がれている場合などに生じる病気である。いったん萌出が妨げられると、原因が除去されても自然萌出に至らないことが多く、そのままでは埋伏歯が使えないだけでなく、正常咬合が確立できない事態となる。
 最良の解決策は、口腔外科的に開窓後、矯正歯科的に牽引し咬合に参加させることである。単に萌出させたと言うだけでなく、牽引後マルチブラケット装置を使用し、正常咬合を確立したケースの提示が求められている。

初診時




主訴:”上の犬歯が左右ともなかなか出てこないので診てほしい”

現病歴:学校歯科検診にて犬歯が萌出する気配が感じられないとの指摘を受け、歯科医院で検査したところ、萌出方向異常に加え萌出する隙間も足りないので、矯正歯科の専門医を受診するように勧められた。

家族歴:父親がやや下顎前突傾向がある。

顔貌所見:やや口元の前突感がある。オトガイはしっかり出ているタイプなので、下顎前突傾向が見られる。

頭部X線規格写真所見:
側面(Skeletal Pattern およびDenture Pattern) :上顎骨はやや小さく、下顎は過成長気味だったが、身長の年間成長量は1cm以下で、成長のピークは過ぎているので、これ以上の悪化はないと考えられた。

その他の所見:
 パントモより左右の上顎犬歯が低位(根尖側に位置していると言うこと)において、近心傾斜し(手前に傾いていると言うこと)、側切歯の根尖付近で萌出が止まっていた。

診断(プロブレムリスト):
 1 上顎前歯の唇側傾斜と下顎過成長を合併した上下顎前突症
 2 上顎左右犬歯の埋伏
 3 空隙の不足による叢生

治療中


(左より:初診時、牽引開始時、6か月後、終了時のレントゲン像)
開窓牽引中の様子

治療方針:
 1 上顎埋伏犬歯は、口腔外科的に開窓後、リンガルアーチにより牽引する
 2 上顎犬歯の移動が確認できれば、上下左右第一小臼歯を抜歯し、マルチブラケット装置により、叢生の解消および前歯歯軸を舌側に移動させて上下顎前突の改善を図る。

治療経過と使用装置:
 上顎にリンガルアーチをセット後、口腔外科に開窓牽引を依頼。手術時にリンガルボタンをDBSし、結紮線で作成したフックを取り付けた。フックとリンガルアーチをエラスティックチェーンでつないで牽引した。6か月後、犬歯の移動は確実にできると判断したので、まず萌出スペースの確保のため上顎左右第一小臼歯を抜歯、さらに6か月後、上下マルチブラケットへ移行するため、追加で下顎左右第一小臼歯を抜歯し、マルチブラケット法を開始、後は通法に従い前歯の舌側移動、咬合の緊密化を行い終了した。

マルチブラケット終了時




保定:
 上顎Begg、下顎Hawleyタイプのリテーナーを使用中である。

治療結果
 治療開始年齢は13歳で、レントゲン的には犬歯の歯根は完成直前の状態だった。歯根が完成に近づくと牽引力に反応しない場合もあるので、第一小臼歯の抜歯は移動確認後に行ったが、幸いにもこのケースは順調に牽引することができた。反応が鈍い場合は、埋伏歯を抜歯することもあり得たので慎重に対応した。
 牽引後は、通常の叢生と若干の上下顎前突を合併したケースと同様であるので、治療上の問題は特になかった。

考察
 埋伏歯の牽引は、犬歯、第二小臼歯などによく見られるものであり、正式な矯正治療として手がけるだけでなく、一般歯科からの依頼として部分矯正として牽引のみを取り扱うこともある。ただ、牽引時に不用意に早い段階から唇側に出すと、歯肉の退縮を招くこともある。また牽引スピードが速すぎると歯周組織の再生が間に合わずに退縮をきたすこともあるので注意が必要である。本症例については、問題なく牽引を完了し、個性正常咬合を確立することができた。

取材協力:矯正歯科:洗足スクエア歯科医院(東京都目黒区洗足)
解説:小澤浩之 先生(日本矯正歯科学会専門医)